2009/03/23

さそい

奈良の大学に留学が決まりました、と最後に一言。その彼女と別れてからもう3年と数か月経った。グラーツ空港の税関チェックを無事通過して車に向かったがロビー内のスーパーマケットに戻った、日曜日だったことに気づき夕食の食料をと思ったからだ。入り際に目があった、大柄な美しい人、彼氏らしき男と一緒だった、3年の歳月に磨きをかけられたとでもいおうか、知的な控えめな微笑みが辺りを圧倒しているような眩しささえ感じた。写真集が出来上がり約束通り送り届けるつもりだったのにそのままになっていた。一度書いたメールが不通、住所もわからなかったためだが、いつしか機会をのがした告白のようにゆっくりと記憶から消えようとしていた、そんな矢先のことだった。

いよいよ始めなければという覚悟、脅迫めいた心持で飛行機を降りた直後のことだったので、一夜過ごしてこうして家に落ち着いてから改めてこの偶然の再会が暗示するものを追感しようとしているのかもしれない。『Memoires 1983』のもう一つの事実を清書してくれた女学生、ところどころに解読不可能の赤印が入ったドイツ語の手記をパリで日本語に訳した。そして3年、最後の新たな清書を前にして先に進めないもどかしさと苛立ちを断ち切る日本への旅でもあった。確かにあったはずの過去の未知の世界に踏み込む時が本当に今来ていることを確証するためにこの出会いをここに記しておかねばと思った。

我が家の春一番が留守中に咲きだしていた、もう待ってくれない、とどまるわけにはいかない。